2013/02/11

星座から見た地球 / 福永信


この小説は不思議な構成になっていて、
AからDと名付けられた登場人物についての短い文章が、
くり返し進んでいきます。
でもそのAからDというのは別にいつも同じではなくて、
あるときは明らかに違うしあるときはなんとなく同じようにも思えたりします。
あるいはその中で入れ替わったりもする。
そしてその登場人物は子どもだったり赤ん坊だったり、
あるいは生まれてくる前の人だったり死んでしまった人だったりするのだけれど、
それに対しての説明は全然なくて、
ただくり返し同じ構成が続いていきます。
クライマックスといえるようなものはないし、
そもそもはじまりと終わりもなくてただたまたまここに書かれているだけという感じ。
実際ここに収められている文章は別々の雑誌に掲載されていたみたいだし。

なんだかとてもわかりにくい説明でこの小説の魅力を全く伝えられていないのだけれど、
ひとつひとつの文章が短いもののとても魅力的で、
そして読み進めていくうちに自分の頭の中で前の部分とつながったりつながらなかったりして、
あれこれと想像を巡らすことがすごくおもしろくなっていきます。
この本の中でそれに対する結論は与えられるわけではなくて、
読み終えたところでなんらかのくっきりした輪郭が描かれることもないのですが、
全体がぼんやりしたままそれを頭の中に留めておくことは、
けっこう難しいけれどなかなか悪くない感覚なのです。
ふつう小説というとスペクタクルな事件が起こったり、
いろいろな伏線があったりしてそれが最後の落ちにつながっていったりというような
ものをイメージしてしまいがちですが、
そういったストーリーに引っ張られているものは
確かにすごくわかりやすくて読みやすいのですが、
一方で文章そのものをきちんと読むことを難しくしている、
あるいは書く方もないがしろにしてしまう危険を孕んでいるような気がします。
そういう意味ではこの小説は全体を貫くストーリーはなく、
はじまりも終わりもなくてある断片がここにあるだけです。
でもそれによってこの本に書かれていることの広がりは、
ある領域の中に押し込められたものではなくて
いろんなところに接続していく可能性を秘めているのです。
そして読み手がそれぞれ自分の想像力を駆使して
その世界の輪郭をぼんやりと描いていくことを促しているように思います。


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