2012/06/12

トーマス・デマンド展@東京都現代美術館



自分の好きなアーティスト、トーマス・デマンドの展覧会が東京都現代美術館で開催されていたので行ってきました。
前に彼の展覧会を観たのはベルリンのナショナル・ギャラリーだったのですが、
そのときにはイギリスの建築家、カルソ・セント・ジョンが会場構成を担当していて、
決して使い勝手がよいとはいえない空間に、ミースと数多く協働したリリー・ライヒの仕事を参照しながら
カーテンを用いて展示空間を構成していていました。
その結果、建築/会場構成/作品がうまく関係づけられたすばらしい展覧会となっていたと思います。
また、キャプションなど展示そのものに対する批評性も持ち合わせていて、
すごく緻密に考え抜かれたものでした。
彼自身も建築に対して強い関心があり、チューリッヒにカルソ・セント・ジョンと協働した建築プロジェクトが
あったぐらいで(残念ながらそれは頓挫してしまいましたが)、
それゆえ彼の作品をみるときにもどうしても建築的な要素を抜きにはみることはできません。
建築をつくるプロセスはまだ存在していないリアリティをつくりだそうとしていてベクトルは逆ではありますが、
彼の作品からは多くのことを学ぶことができるのではないかと思います。

彼の作品は元となるイメージの原寸大の模型を厚紙で精巧に作り、それを撮ったものを展示しています。
実際の作品はあるスケールを持っているので、やはり本などでみるのとはかなり印象が違い、
一見すると本物の写真のようにも思えるのですが、よく見ていると細かな質感や微妙なずれなどがあったり、
無機質さが感じられたりと少しずつ実物との違いが認識できるようになってきます。
そしてここで重要なのは、多くの場合元となってるイメージというのは何らかのメディアに載っているものであるということで、
ふだん自分たちが目にしているものそのものに対するリアリティにも揺さぶりをかけられてしまいます。
自分はこういった感覚を与えてくれる芸術作品がすごく好きで、
たとえば他に映画であればアッバス・キアロスタミ監督の作品からはそういったものを感じますが、
その作品に触れることによってあらためて現実というものについて考えさせられます。

今回の展示についていうと、会場構成自体はきわめてシンプルだったのですが、
前回にはまだなかった作品、たとえば大統領の執務室などはイメージの断片がつなぎあわされていたり、
あるいは福島第一原発のものはよりいっそう不気味さを感じられたりととても興味深かったです。
そして前回との大きな違いは映像作品が展示されていたということで、
それはここ数年でYouTubeをはじめさまざまな映像がウェブ上で公開されるようになったということの
影響もあるのではないかと思います。
そして映像作品は、写真作品が持つ不思議な感覚をより増幅させているように感じられてとてもおもしろかったです。
点数自体は多くはないですが、館内で指示されている通り、はじめは何の情報もなしに見て、
次にリーフレットを見ながら回って、さらに家で実際の画像を検索してみるとより楽しめるのではないかと思います。

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