2012/06/05

「ワサビ田」 / 河瀬直美


この映像は、河瀬直美監督が去年の秋に台風によって大きな被害を受けた奈良県十津川村で、
自分が持つワサビ田が台風によってすべて流されてしまった男性にカメラを向けたドキュメントです。
河瀬監督の作品は前からすごく好きでできる限り観ていて、
また作品だけでなく奈良というところにこだわって活動しているところにも強く惹かれます。

とてもきれいな景色をもつ十津川村ですが、不便なところで、高齢化も進んでいます。
そして台風によって大きな被害を受けてしまったわけで、精神的にもとてもつらい状況であることは推し量られますが、
それに屈することなく自分が受け継いできたものを守ろうとする意思からは、いろいろと考えさせられるものがあります。
また、ふだん恩恵を受けているものがときに牙をむきとんでもない損害をもたらすことは
震災で痛いほどわからされてしまったけれど、
それでもなお自然と寄り添っていくという態度は、ひとつひとつのことにこだわりすぎずに
もっと大きな流れに身をまかせて生きていこうというしなやかさを感じさせます。

現在の日本の地方の状況というと、たとえば映画「海炭市叙景」、「サウダーヂ」、「サイタマノラッパー」シリーズなどで
描かれているように、多くの場合おだやかな雰囲気とは無縁で、
さまざまな社会問題があり、かつてあったその土地の景色はどんどん無表情なものにすり替わっていき、
閉塞感を抱えています。
しかしそれでもその場所にとどまって何かをしていくことは、それなりの意味があるような気がします。
そして必ずしも論理的ではないその想いは、今だからこそ大切にしなくてはいけないとも思います。

「同じ国の違う世代よりも 違う国の同じ世代」というのはたしかなのかもしれませんが、
一方で同じ場所で一緒に生活をしていることの意味をもう一度考えなおしたいとも思います。
先人たちがつくりあげてきたものを受け継ぎ、さらにあとの世代へと伝えていく努力は
やはりなされてしかるべきではないでしょうか。
そういったものはともすると変化に乏しく単調になってしまいがちで、
すごくつまらなくもなりかねないのですが、
長い時間をかけて積み重ねられてきたものにはやはりそれなりの厚みがあって、
その上ではじめて現代に生きる人間として新しいものをつけ加えていけるように思うのです。
なにかをしたことに対してすぐに結果を求められることが多いですが、
そのような視点にたってじっくりと腰をすえてものごとに取り組んでいけたらなと考えています。

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