2012/09/12

「北欧モダンハウス 建築家が愛した自邸と別荘」 / 和田菜穂子


「北欧モダンハウス 建築家が愛した自邸と別荘」 / 和田菜穂子

大学の先輩が新たに書かれた本です。
北欧の建築家が建てた自邸・別荘についてのものなのですが、
偶然取材に同行させていただいたものもあり、
とても興味深く読ませていただきました。

北欧には優れた建築家が多くいて、
実際に彼らの建築のいくつかにはいたく感銘を受けました。
その特徴は一概には言うことはできませんが、
ざっくり言ってしまうとモダニズムの教義的な部分を踏まえながらもそれだけにとどまらず、
その土地がそれまで文化として培ってきたものをあわせ持っている点にあると思います。
それはアスプルンドがボザール教育に嫌気がさしインターナショナルスタイルに傾倒していきながらも、
ストックホルム万博以降次第にそれとは距離をとり独自の道を歩んでいったことからも窺うことができます。
個人的にはそういったアンビヴァレントな部分に強く惹かれるし、
現代においても学ぶべき点は多くあると考えています。
ちょうど槇さんが今月号の新建築でモダニズムについて書いておられましたが、
(その中で個人的にとても好きなアスプルンドが設計したヨーテボリの裁判所増築にも触れています)
その意味は変容していっているにせよ、
今の時代は依然としてモダニズムの影響下にあるし、
ある意味ではその力を増していっているようにも思います。
ただそれは一義的なものではなくきわめて多様なものであって、
個々にそれぞれが解釈していくべきものです。
そんな中でこれまでつくられてきた建築をつぶさに見直していく作業は
どれだけやってもやりすぎることはないし、
特に北欧というヨーロッパの中でも中心からはずれた土地でうまれてきたものは、
いわゆるグローバリズムに絡めとられてしまわないためのヒントを多く秘めているのではないかと思います。

この本において興味深いのは、建築家の自邸と別荘にフォーカスすることで
彼らが生活についてどう考えていたかということを窺い知ることができる点にあると思います。
それはつまり建築家としてだけでなくひとりの人間としての、
あるいは家族を含めた中での生活を見ることにもつながっていき、
それによって多くの場合彼らが重視している建築における細部のデザインを照らしていくことになります。
場所や生活、身体など具体的なものを扱っていくことはアイデアやコンセプトを重視する上では障害ともなるし、
ある意味での「わかりやすさ」は失われていくことにもなりかねませんが、
それらなしでは建築は成立しえないし、それらによってうまれるものは実際に体感してみなければわからない
空間の豊かさをもたらし、また時間によってより強度を増していきます。
残念ながらそういったものはなかなか写真では伝わりきらないのですが、
あらためてその重要性に気づかせてもらいました。

強いていうならば個人的には日本ではあまり知られていない建築家も取りあげて欲しかったですが、
それは今後に期待したいと思います。


夏の家 / アルネ・ヤコブセン




ヨーテボリ裁判所増築 / エリック・グンナー・アスプルンド



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